Parry People Moverを調べてみた

United Kingdom

Parry People Moverことclass139のことを調べてみると、生い立ち自体も一般的な鉄道車両とは異なることに気付きます。

class139

歴史

“Parry People Mover (PPM)”と呼ばれる一連の車両群ですが、語源としては「Mr. Parryが開発(発明)した移動車両」です。Mr. Parryが何を発明したかというと、①駆動源にフライホイールを用いた車両、②その車両を用いた小規模輸送システムというコンセプト、になります。私が2023.02.04にStourbridge支線を訪問してclass139に乗車した時は、実はフライホイール駆動だということを知りませんでした。帰宅後調べてみると、いろいろと興味深い歴史がわかってきました。

まず、本記事執筆の2025年時点で、PPMを開発していた”Parry People Movers Ltd.”は既に清算されているようです。開発者のMr. Parryも、2023年2月に85歳で亡くなっています(奇しくも私がStourbridge支線を訪問した直後だったようです)。Parry People Movers Ltd.のWebページの形跡がWeb Archiveに残っているのと、趣味人の方がまとめた資料をWebで参照することができましたので、それらの情報をもとに整理してみたいと思います。

Parry People Movers Ltd. が設立されたのは1991年10月のようです。登記上の住所はSheffieldですが、工場があったのはBirmingham近郊のCradley Heathというところで、Stourbridgeとは鉄道で二駅の至近距離にあります。また、後述するVery Light Rail Innovation Centreが位置するDudleyにも比較的近い距離となります。Post Codeでいうと”B64 7DD”で、下記Google Mapのリンク赤枠の右側ではないかと思います。Cladley Heathの工場はすでに閉鎖されて現在は産廃処理場のように見受けられますが、操業中に撮影された航空写真では、確かにレールや建屋を確認することができます。(さらに昔の地形図にさかのぼると、一帯の工場地帯に引き込み線が張り巡らされており、ここで鉄道車両を製造するというのはある意味由緒正しいことなのかも知れません)

車両

当初はナローゲージを対象とした車両を製作しており、Himley Parkという遊園地向け、のちにウェールズのWelsh Highland RailwayやFestiniog Railwayで試験運転を実施した車両等もありました。やがて標準軌サイズのムルティプラに似た外観の車両が登場し、最終的にはclass139という完成形となって営業運転に至っています。

Parry People Moverの一連車両群は順を追ってナンバリングされています。いまとなってはWebで拾える情報をかき集めるしかないのですが、追うことのできる限りで各車両の情報を整理してみました。

1号車

このflikrのリンクの説明文に、1号車は1989年に製造され、4号車とともに1992年7月からHimley Model Villageでデモ運行されていたと書かれています。軌間は610mm、4号車と同時に使用されていたとすれば、第三軌条集電によるフライホイール駆動かと思われます。

“Parry People Movers”のWebアーカイブ(pdf)の中に、1号車の写真と若干の説明文を見つけることができました。1991年製だそうで、見た目は細身、花巻電鉄の車両のようです。

2号車

探した限りでは、情報は見つかりませんでした。存在はするのでしょうが、初期の試作車に相当するでしょうから、あまり表に情報が出てこないのも無理はないのかもしれません。1号車のリンク先の説明文には1~6号車が610mmで製造されたとありますので、軌間は610mmだと思われます。

3号車

これも明確な情報は見つかりませんでした。YorkのNational Railway Museumで撮影されたこのリンク(BR D8000, BR D6700 and Parry People Mover)の写真に、Parry People Mover 3号車の鋼体というキャプションが付いています。一見PPMの試作車のようにも見えるのですが、これはBirmingham空港連絡用のMaglev(磁気浮上鉄道)で使われていた車両です。Maglevで廃車になったあとに車体だけPPMの試作車に転用された可能性についても、Maglevの運用停止が1995年、後述の4号車の出現が1990年代初頭ということで食い違いますので、やはり最初の写真のキャプションが誤記なのだと思います。

4号車

改めて”Himley Model Village”でのデモ運行について書いてみます。Himley Model Villageは、やはりBirmingham西郊にかつて存在し、東武ワールドスクエアのように小さな建物が並ぶミニチュアパークだったようです。1986年に開園、1993年に閉園となり、その後は長らく廃墟化してしまったようでWeb検索するとうら寂しい写真がいくつも見つかります。以下のGoogle Mapはその跡地です。

以下のYouTube動画の冒頭で紹介されているのがHimleyでのデモ走行の様子です。

“Parry People Movers”のWebアーカイブでは、この車両が4号車とされています。Webアーカイブの写真はダブルルーフでなく、正面中央上部のベルも見られないという差異はあるのですが、別個体といえるまでの証拠はなく車体そのものがほぼ同一と思われるため、まず4号車といえると思います。610mm軌間、第三軌条集電によるフライホイール駆動となります。Himley Model Village閉園後は敷地内に放置されていたようですが、最新の航空写真には写っていませんので解体されたのかもしれません。

5号車

2号車と同様に、まったく情報が見つかりません。やはり610mm軌間であることが推定される程度です。

6号車

1号車のところで示したflikrのリンクには、6号車は1993年に製造、1993年初頭にHimleyでのデモ走行にも使われたと書かれています。一方で、上記YouTube動画では、ロンドン東部”Barking”という街のパーク&ライドをテストケースとして、Carpet Track(既存インフラに手を加えずに簡単に軌道を敷設できるコンセプトのこと)のデモンストレーションにも使われたことが紹介されています。以下のGoogle Mapで、中央にある商店街の短い区間を走行したと思われます。4号車のトラム然とした外観からは変わって、箱型のレールバス型の車体を持っています。動画内の車体前面に「6」と明記されていること、Webアーカイブの写真に、やはり6号車として紹介されていることから、間違いないと思います。610mm軌間、第三軌条集電です。

それにしても動画内で後方左側に、怪しげな車両が映っていることが気になります。上部の方向幕?が、後続のPPMシリーズの意匠に似ていたり、側面の文字が”Tram Parry”と読めなくもなかったり、正体を知りたいところです。

このほかWebアーカイブでは、1993年8月にBirminghamの”Centenary Square”で、やはりCarpet Trackのデモが行われた写真を見ることができます。Centenary Squareには現在Birminghamの路面電車”West Midland Metro”が通っていますので、時間を超えてレールが復活した形ですね。

Cradley Heathに戻った後、2005年3月にオーバーホールを受けてデモカーとしての使用が再開されたようです。

7号車

再びダブルルーフの路面電車然とした外観に戻ります。1994年には登場しており、主に9号車と一緒に各地でデモ走行を実施したようです。1994年にBrightonのNew Road、1994年9月にWelshpool & Llanfair Light Railway(写真)、1994年12月にSwanseaのPrincess Wayでの記録が残っています。1995年冬にはCradley Heathに戻っていますので、各デモ走行もスポット的だったようですね。2004年7月にどこかの施設で撮影された写真があり、その後は2024年2月時点で、ロンドンMertonの民家の庭先に放置されている様子が撮影されています。12人乗りです。Welshpool & Llanfair Light Railwayが762mm軌間ですので、7号車も762mmなのだと思われます。

8号車

情報がありません。

9号車

7号車の兄弟車のようで、車体長が約1.5倍、定員が20名となっています。7号車ほど記録が残っておらず、Cradley Heath、どこかの施設、1994年12月のSwanseaでの写真がWebアーカイブで見られる程度です。軌間に関する情報は見つかりませんでしたが、7号車と兄弟車と考えると762mmかも知れません。

10号車

10号車と目される車両が2両あります。一つは”JPM Parry & Associates Testbed vehicle”という、いかにも工事車両然としたものです。見た目はこれまでのレトロトラムの系譜を引き継いでいますが、車体の真ん中が荷台のようにフラットになっており、事業用車の雰囲気です。車体に”No.10″とナンバリングされたこの車両が、”Weymouth Quay Tramway”を試験走行する様子がYouTubeで公開されていました。1996年9月のことだそうです。軌間は1435mm、外部からの給電で0.5tのフライホイールを回しているようです。

もう1両は、いわゆるムルティプラ顔の初号機となるPPM35です。1998年から2000年にかけて、Bristolの”Bristol Harbour Railway”の SS Great Britain ~ Industrial Museum間で30か月にわたり一般運行されました。軌間は標準軌で、定員35名の車体ということでPPM35という名称がつけられています。動力源はフォードのプロパンエンジンだそうです。一般運行に先駆けて1997年に実施された試運転の映像がYouTubeにありました。

flikrの写真の解説ではこの機体をNo.8としており、であれば8号車の空白を埋めることになるのですが、登場順序が合わないこと、本家Parry People Movers Ltd.のWebアーカイブだと10号車と紹介されていること、から、ここでは10号車として取り上げたいと思います。

白い車体にスポンサー?の企業名が書かれた姿で走っていた時代、その後、上半分が青、下半分が白、間に緑帯の塗装となり、側面に”BRISTOL ELECTRIC RAILBUS”方向幕に”SUSTRACO PPM35 Electric Railbus”と表示された姿の時代があります。BRISTOL ELECTRIC RAILBUSの後継がSUSTRACOという会社のようで、“Ultra Light Rail”というWebページで名前を見つけることができます。これらのパートナーがPPMと組んで、Bristolの一般運行を成功させたということかと思います。青白緑の姿で、イングランド中部の”Ecclesbourne Valley Railway”で2007年8月に撮影された写真がflikrにありました。実車を見られるのではないかと、私も2023年3月5日にEcclesbourne Valley RailwayのWirksworth駅を訪れてみたのですが、見つけることはできませんでした。

それもそのはずで、Ultra Light Railの2018年10月の記事に、真っ白な車体だけがどこかの駐車場に置かれている写真が掲載されていました。側面3枚窓のPPM35は1台しかなかったようですので、10号車で間違いないと思います。Severn Lambという遊園地の鉄道車両を製造する会社に持ち込まれ、そこでプロパンガスエンジンからバイオメタノールエンジンへ換装し、2020年7月にLong Marstonでデモ運転が行なわれました。いちおうフライホイール駆動のままのようですが、下回りとボディに一体感はなく、ちょこんと乗っただけの感じになっています。さらにいまはやはりBirmingham西郊のVery Light Rail National Innovation Centreに持ち込まれ、現在も試験車両として使われているようです。

やはり気になるのは、外観が全く異なるTEST VEHICLEの10号車、ムルティプラ顔の10号車が、同一なのかどうか(主要部品が流用されているのかどうか)という点です。時系列的には合うのですが、実際のところは分かりません。

11号車

11号車はウェールズの狭軌鉄道で実証実験のために1998年に製造された車両のようです。1999年に”Welsh Highland Railway”で試験運行された記録がありました。動力はLPGエンジンで、軌間は597mmかと思われます。定員30名の路面電車タイプということで、”PPM 30 District Tram”という名称が与えられていたようです。Welsh Highland Railwayの険しい路線を全線に渡って走行したとは考えられず、Caernarfon周辺で使われたものと思われます。上の記事によれば1999年末には故障しメーカーに戻っており、確かに2000年にCradley Heathで撮影された写真がWebアーカイブにありました。

その後2003年には、12号車以降で使われる静水圧システムの試験車両となり、例によって路面電車ふうの塗装に変更、デモ用としてCradley Heathでは使われていたようです(参考)。2004年には標準軌に改軌され、”Cambrian Heritage Railway”の”Oswestry”に入線しています。その後の経過は分かりません。

11号車関連では、1997年10月に”Ffestiniog Railway”の”Porthmadog”で撮影された動画がYouTubeにありました。”Weymouth Quay Tramway”で使われた方の10号車と同じく、黄色塗装で”TEST VEHICLE”と書かれています。Minfforddで撮影された写真もありますので、Ffestiniog Railwayの平坦区間で試験運行されたようです。この車両のナンバリングや詳細はよくわからないままです。

12号車

ここまで来て、ようやくStourbridge支線が出てきます。12号車は定員50名のPPM50として2003年に登場しました。いわゆるムルティプラ顔の2両目なのですが、10号車が路面からの乗降に合わせた低床車なのに対し、12号車は鉄道線のホームに合わせて450mmかさ上げした(アンコをはさんだ)高床車となっています。これまでの車両群と比べると立派な鉄道車両の趣です。

2002年にまず”Severn Valley Railway”に持ち込まれ、Kidderminster近郊で複数回にわたり試験運行されました。Stourbridge支線での活用を視野に入れた乗務員訓練等がすでに行なわれていたということです。

続いて2003年7月には”Chasewater Railway”に搬入されています。

2005年8月には”Wensleydale Railway”にも持ち込まれています。

そして2005年11月に、Network Railからの認可が下りて、ようやくStourbridge支線のStourbridge Junctionに入線を果たしました。2006年2月5日から、Stourbridge支線にて念願の商業運行を開始しています。恐らくこのタイミングで、class999 900という形式と車号が付番されたと思われます。

2009年5月に、下記class139が配置されたことによりStourbridge支線から退役、Cradley Heathに戻り、オーバーホールと塗装変更を受けています。同じくCradley Heathに戻っていた10号車とも顔を合わせています。搬入の経緯は分からないのですが、2011年1月に”Mid Hants Railway”の”Alresford”で故障したそうで、以降修理されています。

2014年にターボディーゼルエンジンへの換装に併せてclass139 000となり、タタ製鉄の専用線に持ち込まれる計画があったようですが、実現したかどうか分かりません。2022~2024年にかけて再度”Severn Valley Railway”に搬入、その後10号車と同じく“Very Light Rail National Innovation Centre”に持ち込まれているようです。今日のclass139の活躍を導いた、激動の車両人生と言えるかもしれません。

class139

2007年に定員60名のPPM60として設計開始され、2008年7月に001が完成、まずはChasewater Railwayで試運転が開始されました。2009年5月17日に001,002の2両がStourbridge支線に搬入、以来、ヌシとして営業運転を続ける活躍を見せています。

PPMとはなんだったのか

1号車から2両のclass139まで歴史をたどるにつれ、Parry People Moverとはなんだったのか、とても興味を持ちました。フライホイールを駆動源に使うというアイデア、いまのようにリチウムイオン電池が実用的になる前の時代においては、期待値も高かったのかもしれません。歴史を調べると、このPPMの技術でトラブルが多発したというわけでないにも関わらず、商用運行まで15年以上かかったということも示唆に富んでいます。1路線で実用化されたという事実を、成功と捉えることもできますし、失敗と捉えることもできます。Mr. Parryも、技術を追い求めたというよりは、いかに普及させるかという宣伝活動に心を砕いたように見受けられます。

広く普及しない理由を考えると、衝突安全性の問題があるかも知れません。フライホイールで効率よく走行するために車体が軽量に作られており、製作中のフレームの写真を見ても非常に華奢なように感じます。class139はStourbridge支線以外の本線走行は禁止されており、Stourbridge支線自体もそもそも1閉塞ですから、他の列車との衝突の可能性がない条件でかろうじて運行が許されている様子です。踏切もありません。PPMが考案されて以降Stourbridge支線での商用運行に至るまで、ひたすらナローゲージや保存鉄道で試験走行を繰り返していたのも、National Railの線路上での走行が許可されなかったという背景がありそうです。

PPMの活動を引き継いだともいえる、CoventryのVery Light Rail計画が、今後どのように進んでいくのか興味深いところです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました