鉄道の線路は通常2本のレールから成っており、それに跨って車両が走行します。2本のレールの間隔が路線によって異なるものがあり、間隔が異なる路線が乗り入れる場合に3本だったり4本のレールが敷設されて同じルートを走ることができるようになっています。こういった線路を3線軌条や4線軌条と呼ぶわけですが、ドイツ中部のKasselの路面電車網には6線軌条というものが存在します。
6線軌条ができた歴史(理由)や該当する区間については、地図と鉄道のブログに詳述されています。簡単に説明すると次のようになります。Kasselの路面電車網が郊外に延伸するにあたり、既存の国鉄路線を流用(乗り入れ)することになりました。Lossetalbahnと呼ばれるこの区間に停留場を設置する際、車体幅が広い既存の貨物列車に支障しないようにホームを設置すると、車体幅が狭い路面電車のドアとの間に大きな隙間ができてしまいます。ドアとホームとの隙間を小さくするため、停留場の場所だけ路面電車用の線路をホームに幅寄せする構造とされました。既存の国鉄の2本のレールと、幅寄せのため分岐した2本のレールが並んでいるため4線軌条となります。加えて、路面電車の乗降ドアが片側にしか設置されている車両があり、単線の場合は上下列車で左右別々のホームを使用することになります。それぞれのホームに幅寄せする必要がありますから、さらに2本のレールが必要で、合計6線軌条が発生することになります。ホームと車両との位置関係が理由で走行するレールをずらすという意味では、京急六浦駅と事情は似ているということもできます。Lossetalbahnも京急六浦もポイントにフログがないという共通点があります。そもそもポイントとは呼ばないのかもしれませんが。

非常に興味深いこの6線軌条に乗車するためKasselを訪問しました。
KasselからHelsaへ
2019.09.01、この日は所要でドイツ訪問中で、少しを足を延ばしてKasselまでやってきました。DBのKassel Wilhelmshöheで列車を降り、階段を上って地上の路面電車駅に向かいます。Kassel Hbf.(中央駅)はここよりも東にある別の駅であり、ICEの高速線開通に伴って主要ルートから外れてしまったようでした。Lossetalbahnへ向かう路面電車は”4系統”で、30分に1本の間隔なのであまり便利とは言えません。6線軌条の停留場が続くKaufungenを越えてHelsaまで向かう、8:43発の電車に乗り込みます。

住宅地や市街地が続く、いわゆる路面電車の街並みを抜け、Altmarkt/Regierungspräsidiumでフルダ川を渡ります。そこからは幹線道路に沿って東に向かいます。Lindenbergを過ぎると右手に貨物線の線路が寄り添うようになり、路面電車区間の終点であるKaufungen Papierfabrikに到着しました。4系統はここから貨物線に乗り入れ、乗り入れた先に6線軌条が存在します。いよいよかと思っていたら、何やらアナウンスがあり、乗客全員がここで降車する雰囲気なことに気付きました。私も倣って下車します。どうやら、何らかの事情でこの先バス代行となっており、Helsa方面に向かう乗客もバスに乗り換える必要があるようでした(私は恥ずかしながらドイツ語が分からないので、こういうときに困ります)。決まった計画を立てておらず、電車に乗って様子を見ながら6線軌条の適当な駅で下車しようと思っていたので戸惑いつつ、いずれにしてもバスに乗るしかないので、他の乗客についていくことにしました。
バスは線路に沿って伸びるLeipziger Str.を東に走っていきます。途中、Oberkaufungen Gesamtschuleで駅前に寄り道したほかは、仮設停留所が通り沿いに設けられていました。バスに乗りながら、6線軌条の駅のひとつであるDRK-Klinikで下車しようと思っていたのですが、代行バスは停まることなく、気づいた時にはKaufungenの街を出て、終点のHelsa Bahnhofに向けて最後の一区間を走っているところでした。
Helsaに着きました。DRK-Klinikで降りたかったこと、降りられなかったのでHelsaまで来てしまい運賃が足りていないことを運転手さんに伝えると、もうすぐ逆行きのバスが来るのでそれで戻れということだったので、仕方なくバスを降車します。このバスがそのまま折り返すかと思っていたのですがそうではなく、予想外の場所に置いて行かれることになりました。

Helsa Bahnhofは路面電車のホームと貨物線の線路とが分離されているためホームと車両との干渉がなく、4線軌道もしくは6線軌道とはなっていません。バスを降りた東側に路面電車上下線の2面2線、少し間をおいて西側に国鉄線(ホームなし)という配置です。


20分ほどすると、ちゃんと反対行きのバスがやってきました。これに乗って戻るしかないので乗車します。バスが走るLeipziger Str.と6線軌条の停留場との位置関係を改めて確認し、Niederkaufungen Mitteの近くで下車することにしました。バス通りから2~3分歩き、ようやく6線軌条と対面します。

Niederkaufungen Mitte
Niederkaufungen Mitteは単線区間上にある棒線駅です。下の写真の奥がKassel方向で、分かりやすいように6つのレールを色分けしてみると、オレンジが路面電車の下り線、青が貨物線、緑が路面電車の上り線になります。いずれも標準軌で、停留場の両側にあるポイントで左右に分岐する形です。



分岐器はいずれも弾性ポイントで、レールにつなぎ目はありません。ヨーロッパでは珍しくないのかもしれませんが、比較的高規格といえそうです。訪問時のポイントの開通方向はすべて定位(中央の貨物線方向)となっており、やはり路面電車が走行していないことがうかがわれました。バス代行なのですから当然といえば当然ですね。開通方向の貨物線の線路も錆びているため、いずれにしても列車の走行自体がないようです。貨物列車がほぼ走っていない状況で幅寄せのために設置された分岐器を保守していくのも費用がかかるでしょうから、このまま撤去されてしまうのでしょうか。その撤去工事のための運休=バス代行なのではないかと勘繰ってしまいます。
待っていても列車はやって来ないので、写真を撮るだけ撮って30分後の代行バスでKaufungen Papierfabrikに戻りました。


後日談
帰国後Kasselの路面電車のことを調べていたときに、この記事とこの記事に行き当たりました。私が訪問する10日前の8月22日、Niederkaufungen Mitte~Niederkaufungen Bahnhof間のガード下にトレーラーが衝突し、線路が歪んでしまうという事故があったようです。その復旧のためにバス代行となっていたのですね。
訪問時に撮影した写真を拡大してみました。三角標識のある信号機のすぐ手前が事故現場となります。レールはおおむね元位置に復旧されていますが、前後のレール位置とは若干ずれているようにも見えます。

バス代行の理由が判明し、6線軌条が廃止されるというわけではないことが分かりましたので、再訪して路面電車で6線軌条を体験したいと思います。


コメント