GWRの Class800/802 その1 概要や違い

United Kingdom

はじめに

一昔前までイギリスを代表する列車と言えばHSTでしたが、日立が開発したClass800シリーズ: IET(Intercity Express Train)がすっかり取って代わってフラッグシップと言える存在になりました。私が2021年9月から2024年3月までを過ごしたOxfordにもGWR(Great Western Railway)のClass800と改良版のClass802が走っていました。

GWRのClass800はLondon Paddingtonを拠点として、主にイングランド南西部(コーンウォール方面)やウェールズ南部(カーディフ方面)をカバーするように運行されています。London PaddingtonからSwindonを経てBristol Temple MeadsまでがGreat Western Main Lineと呼ばれる本線となっており、そこから枝分かれするような形で路線網が築かれています。このうちOxford方面は、Great Western Main LineのDiscot Parkwayから北方に分岐し、Oxfordから先はCotswolds線に乗り入れてウスターソースで有名なWorcesterまで走る列車もあります。

London Paddingtonで発車を待つGWRのClass800/802

イギリスの鉄道は総じて電化率が低く、Great Western Main Lineの電化が始まったのも2018年のことだそうです。London側から始まった電化も未だに全線に及ぶことなくChippenhamの少し手前で終わっており、Didcot ParkwayからOxfordへ分岐するCherwell Valley lineも非電化のままとなっています。

電化区間と非電化区間が混在する運行エリアにおいて、バイモード車両であるClass800/802はうってつけの存在なわけですが、それが却って電化の進展を遅らせているようにも思えます。このようにして、GWRの長距離列車はClass800/802でなければ成り立たない状況となっています。

By OpenStreetMap contributors – openstreetmap.org, CC BY 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=50390047

編成

種類

GWRのClass800、Class802は、ともに5両編成と9両編成があります。いずれも両端の先頭車にパンタグラフが1基ずつ搭載されていますが先頭車は動力車ではなく、5両編成は2, 3, 4号車、9両編成は2, 3, 5, 7, 8号車が動力車となります。動力車にはインバータと226kWの誘導機が4基ずつ、700kWのディーゼルエンジンが1基ずつ搭載されています(Class800のエンジンは当初560kWだったが、2017年にソフトウェアアップデートで700kWに増強されている、らしい。燃料タンクもGWRのClass800は当初から大型のものであり、Class802との差異はない模様:参照)。電化区間では先頭車のパンタから集電して直接モータを駆動、非電化区間ではエンジンで発電してモータを駆動する、というバイモード車両です。Hitachiの技術ですし、電化/非電化が混在する日本でももっとバイモードが採用されてもいいように思いますが、車体長が20m級と短い日本の場合は艤装が難しいのかもしれません。調べた限り、運転最高速度は電化/非電化に関わらず125mph(201km/h)で、非電化区間では採用されている信号システムの制約で運用上の最高速度は低いことが多いようです(正確な出典は見つけられていません)。車両としての設計上の最高速度は140mph(225km/h)ですので新幹線0系と同等といえますが、いわゆる高速新線を走る列車ではなく、あくまで在来線車両という位置づけかと思います。

電化区間の走行時、パンタはいずれかの先頭車1両のものを使用します(編成内1基のみ)。5両や9両編成の単独運転では前側のパンタ、10両編成の重連時には両端のパンタを使用します。座席にはFirst classとStandard classがあり、5両編成は片側の先頭車と隣接する中間車の半室、9両編成は同様に片側の先頭車と隣接する中間車すべてがFirst classに割り当てられています。多くの場合、London Paddington方にFirst classがくる編成の向きとなるのですが、たまに反転している場合もありました。

製造

GWRのClass800/802は、800/0と呼ばれる5両編成が36編成、800/3と呼ばれる9両編成が21編成、802/0の5両編成が22編成、802/1の9両編成が14編成となります。800/3は当初オール電車のClass801として企画されたところ、GWR管内の電化遅れの影響で途中でClass800に変更された経緯があり、LNERの800/1, 800/2に続く800/3が付番されたようです(でなければ、/以下の番号が飛んでいるのが不思議ですもんね)。

これらの車両の製造ですが、主に以下の3つのパターンに分類できます。

(1)山口県の日立製作所笠戸工場で製造、車両として完成した状態で船でNew Southamptonに運ばれたもの。Class800/802とも初期の車両が該当します。早期に試運転に投入したり完成車両の見本として使われる意図で、日本で仕上げたものが送られたのではないかと推察します。

  • 800/0(5連)の第1〜4編成
  • 800/3(9連)の第1~3編成
  • 802/0(5連)の第1、2編成
  • 802/1(9連)の第1編成

(2)笠戸工場で構体を製造、イングランド北部のNewton AycliffeにあるHitachi Railに構体を運び、組み立てを実施して完成させた車両。いわゆる英国製のClass800で、(1)以外のClass800の車両が該当します。

  • 800/0(5連)の第5〜36編成
  • 800/3(9連)の第4〜21編成(ただし、第11編成と第12編成の9号車、829011と829012は旧800/0の第1編成と第2編成の5号車、815001と815002をコンバートしたという記録もあり、その場合は(1)に該当して日本製。参照:Colin J Marsden, “RAIL GUIDE 2020″)

(3)笠戸工場で構体のパネルを製造(FSW)、イタリア北部のPistoiaにあるHitachi Rail Italyにパネルを運び、そこで構体に組み上げ、そのうえで最終組み立てまで実施して完成させた車両。完成後はユーロトンネルを経由した鉄道輸送でイギリスへ運搬されました。日本でいう甲種輸送に相当し、イタリア→オーストリア→ドイツ→フランス→イギリスのルートを通過、鉄道輸送会社のRail Adventureが担当しています。802/0は2編成セットの10両で、802/1は単独の9両で輸送されています。これがいわゆるイタリア製のClass800で、(1)以外のClass802の車両が該当します。

  • 802/0(5連)の第3〜22編成(第3編成のみ構体の状態で笠戸からPistoiaに輸送)
  • 802/1(9連)の第2~14編成

なお、Newton Aycliffeには溶接および塗装工場がなく、笠戸工場でかなり仕上がった塗装済みの状態で航送されていたようです。800/0については白ボディで送られたためGWRの緑色の外観はラッピング、800/3からGWRの緑色に塗装された状態で送られていると思います。この関係で、800/0のみ窓回り、手すり回り、妻面といった複雑形状までラッピングが回っておらず、白いままであることが外観上の特徴です(※ここ数年でラッピングから塗装に変更された編成もあり)。Class802は全て塗装車です。

中央に先頭部が見える2編成が800/0。ドア周りが白いまま

時系列

GWRのClass800/802の導入に関わる一連の流れを、報道資料等をもとに時系列でまとめてみました。(太字はGWR関連)

2012年7月25日 日立が英国運輸省都市間高速鉄道計画(IEP : Intercity Express Programme)の契約締結

2013年11月 Newton Aycliffeの工場建設開始

2014年10月 Newton Aycliffeの工場完成

2014年11月3日 Class800量産先行車(800001)が笠戸で報道公開

2015年1月7日 Class800量産先行車(800001)5両が笠戸から出荷

2015年3月11日 Class800量産先行車(800001)5両がNew Southamptonに到着

2015年7月30日 日立がFirstGroup社とClass802の契約を締結

2015年11月2日 日立がアンサルドブレーダを買収することを発表(イタリアPistoiaに拠点)

2016年6月30日 招待客対象の最初の運行(800004)

2016年12月9日 最初のNewton Aycliffe製が完成(800005)

2017年3月5日 下松市で陸送イベント GWR色先頭車。車番不明。

2017年3月20日 笠戸で輸送船の公開イベント カバーされており詳細不明。

2017年4月26日 Class802量産先行車(802001)5両が神戸を出港

2017年6月17日 Class802量産先行車(802001)5両がNew Southamptonに到着

2017年8月 Class802の試験走行開始

2017年10月16日 Class800の営業運転開始

2018年2月9日 最初のPistoia製が完成(802003+802004)

2018年5月19日 笠戸公開イベント TranPennine Express向けClass802公開

2019年3月 PistoiaからClass802の出荷終了(計画通りであれば)

2019年頃の動画 笠戸から白のClass801出荷(船積み)の動画あり(801210)

2019年7月14日 下松市で陸送イベント、白の121編成目の先頭車2両(Class801の模様)。7月末の122編成目で笠戸からの出荷終了(UK政府のIEPプロジェクトの総契約数が122編成、866両)

Class800とClass802の違い

時系列をみると、Class800とClass802の関係が少し見えてきます。Class800がGreat Western Main Lineに投入された成功を受けてClass802につながったのではなく、Class800が営業運転を開始する前にClass802の試験走行が始まっていることが分かります。Class800導入の背景にあるのは英国政府主導の国プロであり、GWRとLNER双方の走行要件を満たすような仕様の車両が開発されたのだと思います。ところがGWRのほうが非電化区間が多く、Class800の性能では不足しているということで独自発注したのがClass802、ということなのでしょう。GWR区間におけるClass800の性能試験では、置き換え対象のHSTのダイヤに合わないことが分かったため、政府認可のうえでGWRのClass800自体も営業運転前にClass802同等性能(エンジンのパワーアップ、燃料タンク増容量)にアップグレードされているようです。従って、少なくともGWRのClass800とClass802の違いは性能面ではなく、発注者の違い、ということになるかと思います。

(※2026/1/10追記 M車屋根上に設置されたブレーキ抵抗器の数が、Class800が1基、Class802が5基という違いがあるようです。連続勾配でのブレーキ性能に差があるのかも知れません)

Class802投入の動機としては、コーンウォール地方の長距離非電化区間への対応ということが謳われています。IEPの技術仕様書では、無給油運行のダイヤグラム例としてデヴォン地方のExeterまでしか定義されていないため、コーンウォールにはClass800では対応できないという切り分けも間違いないのでしょう。いずれにしても、現在は総数605両の大所帯としてGWRの都市間路線を支える存在となっているのは間違いありません。

コーンウォールのDawlishを通過するClass802

ちなみに、デヴォンやコーンウォールで最後まで走っていたHSTが2025年12月11日にすべて引退しました。この代わりにClass802が増備されたということはなく、Transport for Walesから転用されたClass175が運用に就いているそうです。

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