ユーロトンネルを通るカートレイン”Le Shuttle”

France

イギリスに住んでいる間に、一度は自分のクルマでヨーロッパ大陸に渡って旅行してみたいと思っていました。昔から、イギリス~フランス間にはイギリス海峡を渡るカーフェリーが何ルートも就航していますが、鉄道好きとしては、やはりユーロトンネルを通る”Le Shuttle”を利用してみたいところです。

イギリス側から見ると、Le Shuttleはドーバー海峡の付け根にあるFolkestoneと、対岸のフランスにあるCalaisの間、約58kmを35分かけて走行するカートレインです。FolkestoneとCalaisには自家用車だけでなくトラックやバスといった大型車両を積載できるターミナルがあり、クルマは自走で貨車に乗り込んで、運転手や同乗者ごと列車で運んでくれるシステムです。15分ないし30分間隔で頻発運行しており、いわゆる「シャトル便」という名前がぴったりくる運行形態です。

イギリスの祝日(少ない!)と有給を組み合わせて5連休となった2023/4/7~11にかけて、Le Shuttleを利用して自分のクルマでヨーロッパ大陸に渡ってみることにしました。

準備

自分のクルマで旅行ができれば、交通費はガソリン代だけで済みます(高速料金は国によってあったりなかったりします)。荷物も好きなだけ積んでいけますし、飛行機のように液体の運搬に気をもむ必要もありません。なにより、慣れている自分の車で運転できるのは楽ですし、右側通行の国を右ハンドルの車で運転するのも、そうそうできない貴重な体験です。

一方で、いま乗っているクルマそのままでLe Shuttleに乗ればいいというものでもなく、調べてみるといろいろと事前準備が必要なことが分かりました。

各国で有効な運転免許証

当たり前ですね。私はイギリスに居住するにあたって日本の運転免許証をUKの運転免許証に書き換えており(いわゆる外免切替)、UKの運転免許証はヨーロッパ各国でそのまま使用することができ、国際免許証の取得は不要なので、これは気にせずに済みます。もっとも、イギリスで国際免許証を取得するのは郵便局で15分程度の手続きで済むので、それほど大変なわけではありません。

V5C Certificate

個々のクルマの車歴を示すログブックで、いわゆる車検証のようなものです。普段は家に置いているので忘れず携帯しなければならないですね。

自動車保険

任意で加入している自動車保険の条項を見ると、年間60日までは、UK外のヨーロッパでの運転に際しても保険が適用されると書いてありました(私が入っていたAdmiralの場合)。長期休暇が一般的なヨーロッパらしい規定かと思います。60日間をどのように判断するのか分かりませんが、自己申告なのでしょうかね。いずれにしろ、今回は5日間なので全く問題ありません。

ナンバープレートへの国名表示、もしくは国名ステッカーの表示

UK外のヨーロッパ各国で見かける横長のナンバープレートには、殆どの場合左端に国名が表示されています。これは国境間の移動が一般的なヨーロッパならではのことかと思います。一方でUKは島国ということもあってか、多くのクルマが国名表示なしのナンバープレートを装着してます。私のクルマも中古車で購入した時には国名表示なしのナンバープレートでした。

ちなみにUKでみかけける国名表示ありのナンバープレートには大きく3種類あります。

① EUのマーク+GBの文字(EU各国と同様のフォーマット)

② ユニオンジャック+GBの文字(EU離脱後)

③ ユニオンジャック+UKの文字(2021年9月からGB表記は無効、UK表記のみ有効となった)

現状、UK外で有効なのは③のみで、その他の場合はUKと書かれた楕円のステッカーを貼る必要があります(楕円のステッカーシステムは世界共通で、日本車もJPのステッカーを貼って海外で走ることもできるようですね)。

私のクルマもステッカーを貼れば事足りるのですが、ここはかっこよく③のナンバープレートを新調しようと心に決めていました。Halfordsというカー用品チェーン店があり、Webで注文することができます。1週間ほどで「完成したので取りに来て」という電話を受けて近所のHalfordsに取りに行き、帰宅して包装を開梱したら、なにをどう間違ったのか、イングランド表記の前側プレート1枚が出てきました。私が注文したのはUK表記の前後プレート計2枚なのに。

翌日店舗に言って抗議したところ、「確かに注文はUK表記のナンバープレート2枚である」「店舗にUK表記の無地のプレートがあれば印刷するだけですぐにできるのだが、片方しか在庫がない」「ついては払い戻しする」「ナンバーを作らなくてもステッカーを貼れば行けるよ」とのことで、振り出しに戻りました。このいい加減さがさすがUKクオリティです。

Oxfordに近いDidcotのHalfordsにも在庫はなく、結局遠くのSwindonの店舗まで足を延ばしたところでようやく本来ほしかったプレートを作ることができました。ナンバーをプリンタで透明シートに印字して、無地のプレートに貼るだけという簡単な作り方です。工賃を払えばHalfordsでも交換してくれるのですが、家に持ち帰り自分で交換しました。UKでは白が前側、黄が後側です。ちなみに注文時には前述のV5Cの提示が必要なので、簡単に偽造できるわけではありません。

ヘッドライトコンバータ

これも結構不思議な話なのですが、左側通行のUKのクルマは、対向車がまぶしくならないようにヘッドライトの光軸が少し左に向いているのだそうです(日本でもそうなのでしょうか?)。右側通行のヨーロッパ各国ではそれでは逆にまぶしくなってしまうため、光軸を補正するコンバータを装着する必要があります。コンバータといってもただのシールで、ライトケースの上から貼って右方向の光を単に遮断するような仕組みに見えました。メッシュ状の模様なので光の干渉効果で光軸を補正するかと思いきや、メッシュはただの模様という効果不明の商品が、これまたHalfordsで販売されています。そして後日、実際にこれを装着している車を見かけることはありませんでした、、、

三角表示板、反射ベスト、救急セット

非常時対応のセットですね。ヨーロッパ各国に限らず、UKでも日本でも、積んでいるにこしたことはないと思います。発炎筒は日本だけなんでしょうかね? ヨーロッパでは見かけません。

予約

Le Shuttleを利用するには、Webからの予約が必要です。予約サイトで利用日、クルマのナンバーやいくつかの情報を入力すると、当日の列車ごとに料金が表示され、そこから予約する列車を選択する仕組みです。深夜帯や朝は安く、需要が多い時間帯(昼頃)にかけて料金が上がっていくというシステムで、私の場合はOxfordとFolkestoneの間の高速道路の移動時間も考慮し、往復で以下の列車を予約しました。

Outward Journey
Date of travel: Friday 07 April 2023
Time of travel: Departing 12:50 (Arriving 14:25)
Direction: Folkestone to Calais
Ticket Type: Short Stay Saver £ 93.00
Return Journey
Date of travel : Tuesday 11 April 2023
Time of travel : Departing 15:20 (Arriving 14:55)
Direction : Calais to Folkestone
Ticket Type: Short Stay Saver £ 80.00

FolkestoneからCalaisへ

2023.04.07、いよいよ乗車当日です。朝7:45にOxfordの自宅を出発、M40→M25→M20のルートでFolkestoneに向かいます。途中のサービスエリアで15分ほど休憩し、10:10過ぎにFolkestoneのユーロトンネルターミナル、チェックインゲートに到着しました。チェックインの際、自分の予約に関わらずどの列車を利用するか選択する画面が表示されます。記憶が定かではないのですが、予約した12:50よりはかなり早く到着しており、デフォルトで表示されたのは1時間以上早い便だったように思います。

チェックインゲートで順番待ち 左ハンドル車用と右ハンドル車用が交互に並んでいる

これがすなわち、シャトルと名乗るサービスなのかと合点がいきました。UK各地からFolkestoneを目指して走ってきたクルマも、交通状況によって予定より早く着いたり遅く着いたりするのは当然予想されることです。都度、杓子定規に予約した列車を変更する運用では手間ばかりかかります。したがって、クルマがFolkestoneに到着した順番で乗れる列車に乗ってもらい、どんどん輸送していく、というのが実際の運用であり、それこそがシャトルと呼ばれる所以なのだと理解した次第です。要は、自分の予約に関わらず実際に何時何分発の列車に乗ったのかは意識しないまま運ばれる、という訳です。非常に合理的です。

ゲートではチケット代わりの札(Departure letter)が発行されました。私の札には”Z5″と印字されており、今後はこの番号で乗車順を呼び出されることになります。札をバックミラー裏に下げたあと、しばらく行くと駐車場があり、そこにクルマを停めて、ターミナルビルで発車時間までの時間を過ごします。私はここでヘッドライトコンバータを装着しました。

ターミナルビルには飲食店があってゆっくり過ごせるほか、ユーロトンネル工事にまつわる模型の展示もあり、興味深いです。

気がつくとZ5番のクルマが呼び出される順番となりました。クルマに戻って出国審査に向かいます。路面に「↑FRANCE」と書かれているのが大雑把でおかしいというか、気分をかきたてられるというか、ここでしか味わえない経験です。(運転席からの写真は、全て一旦停車してから撮影しています)

イギリスの出国審査、フランスの入国審査ともFolkestoneで行なうことになります。チェックインゲートと同じく、高速道路の料金所のようなブースが出国審査→入国審査の順に並んでおり、Le Shuttleに乗車するクルマはいくつかのレーンに分かれて順次審査を受けていきます。

出国したあと抜き打ちで荷物検査があり、おそらく税関の関係だと思うのですが、私のクルマも抜き打ち検査の列に回されて検査官にトランクを開けられたりしました。その後改めて入国審査があり、パスポートに入国スタンプを押されたら、晴れてLe Shuttle乗車待ちの列に並びます。この辺りはカーフェリーのシステムに似ていますね。

乗車待ちの列

チェックインのときもそうでしたが、ここまでの出国/入国審査の過程でクルマの順番も入り乱れており、結局は乗り口にたどり着いたクルマから載せられるだけ列車に載せて運んでいくということのようです。

やがて自分の列のゲートが空き、前のクルマについて順次列車へと向かいます。広大なヤードを跨ぐ橋を渡り、ホームへとスロープで下りていきます。Le Shuttleをけん引する機関車と、クルマを積載するためにひときわおおきな車体断面を持った貨車が見えてきました。

貨車の内部は二階建てになっており、上階に案内されるクルマと下階に案内されるクルマが振り分けられます。私は下の階に案内されました。貨車側面から内部に入り、車内をずうっと前方まで進んでいきます。貨車の連結面もつながっていて、先に進んだ車から前方のほうに順次詰めていくことになります。(改めて書きますが、一旦クルマを停めてから、後続車の邪魔にならないときに撮影しています)

停止位置になると係員が待っていて、駐車位置を指示してくれます。私は中間にある車両の一番連結面よりでした。クルマを駐車しエンジンを止めると、連結面には火災の延焼防止のシャッターが下りてきました。左右には扉があり、人は行き来することができます。

貨車の窓は小さく、停めたクルマの運転席から見た光景はこんな感じです。ドアの窓は開けておくようアナウンスも流れます。

クルマのコンソールの単位を、UKのマイル表示からヨーロッパのkm表示に切り替えるのも、忘れずやっておきます。時計も1時間進めました。

気が付いたら、列車は音もなく発車していました。小さな窓から見える風景がやがて真っ暗になり、ユーロトンネルに入ったことが分かります。トンネル内で揺られている間は特にすることもないので、ドアを開けて降りてみました。貨車の室内に1両おきに設置されているトイレを利用するために、降車して車両間を行き来するのは特に問題ありません、上階から降りてくるための階段も設置されています。

ひたすら揺られること30分余り、小さい窓から再び明かりが見え、Le Shuttleはフランスに上陸しました。ユーロトンネルを出てもすぐには停車せず、Calaisターミナルのラケットループをぐるりとまわってからホームに到着します。列車が完全に停車したら再び車両間のシャッターが開き、前方の車から案内されてホームに出ることができます(乗車した順で降車する)。ホームに出るとFolkestoneと同じようにスロープで跨線橋にのぼり、なんのゲートを通過することもなく、あとはそのままフランスの道路を走りだすことになります。

Calaisから高速道路を走ること約1時間、私のクルマはさらに国境を越えてベルギーのDe Panneに到着しました。

De Panne の停留場。世界一路線距離の長い”Kusttram”の始発駅です

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